トークイベント:「書かれる手、跳ねる魚が飛び去ったあとでさえもなお|Polyphony1945 – HIROSHIMA編 – 」
日時:10月18日(土)17:00〜
場所:gallery G
登壇者:小林清乃(現代美術作家)/ 松波静香(gallery G ディレクター)
予約不要、無料
プロジェクト「Polyphony 1945(ポリフォニー1945 )」の概要説明、この度の広島市・三次市でのフィールドワークの報告、制作された新作、テクストについての議論を中心に、他者の声と交信することにおける身体性、倫理的な境界、多層サウンドにおける手法などについて時間の許す限り語ります。
※上記以外にもトークイベントを開催予定です。詳細が決まり次第、ご案内いたします。
gallery G では、2025年10月9日(木)より10月19日(日)まで、東京を拠点に活動する現代美術作家 小林清乃の個展「書かれる手、跳ねる魚が飛び去ったあとでさえもなお|Polyphony1945 – HIROSHIMA編 – 」を開催します。
小林はこれまで、ボイスサウンドを中心とした音響、テクスト、映像、写真、インスタレーションといった多岐に渡るアプローチ、実践を行ってきました。本展では、小林が2019年に資生堂ギャラリー(東京)で発表した多声音響作品《Polyphony1945(ポリフォニー1945)》を「ヒロシマ編」として再構築し発表します。
「Polyphony1945(ポリフォニー1945)」とは大戦下の歴史の中で公的な記録には残りにくかった若い女性たちの声の集積を可聴化することをテーマにしたプロジェクトです。
2016年、小林は当時通っていた都内の古書店で店主から偶然あるものを手渡されます。それは真鍮の留め具で閉じられた古い木箱で、蓋を開くと封筒に収められた幾つもの手紙の束が入っていました。封筒の消印の多くは昭和20年。元来、私人によって記された言葉、語られた証言に関心を持って、作品を制作していた小林はその手紙の束が入っている木箱を購入し、持ち帰りました。私信の便りを第三者が読むことには気が引ける思いがしたものの、便箋に綴られている美しい崩し文字の筆跡にも目を奪われ、小林は手紙の書かれた日付とその内容の詳細を無心で追いかけました。
すると、それらの便りは1945年三月に都内の高等女学校を卒業した若い女性たちによって書かれた手紙であるということ、また同年三月から八月の敗戦を経て、翌年三月までの一年間に綴られたものであり、彼女たちが東京大空襲後、全国に散々なって疎開し、その地での境遇や戦下を過ごす事の葛藤、そしてかけがえのない友人との繋がりを求めて書き記したものだということがわかりました。空襲の少ない安全な地にいたもの、東京の惨状に身を置いたもの、広島の田舎に疎開した後、都市に出ていき、原子爆弾の投下によってその一回限りの生命を奪われたもの。彼女たちの運命や体験は身を寄せた先の場所性で大きく異なっていました。
個別具体的なエピソードやモノローグ。長年、木箱の中で静まり返っていたであろう言葉たちは、小林に読まれることによって再び生気を帯びた証言として立ち上がり、多声音楽がその旋律を交差させながら進行していくかのように彼女たち固有の物語りを奏でていました。この聴覚的なイメージの着想によって、小林はこれら手紙の記述を原作とした音響作品を構想し、複数の旋律を同時に演奏する対位法の技法を参照しながらボイスサウンド(現代を生きる同世代の女性たちによって貸し出された音声)による音響制作を行いました。
大文字の歴史やイデオロギーに還元されない複数の女性たちの声 / 語りの交差は、このプロジェクトが古書店で発見されたファウンドレターに端緒を得たもので、当人たちに対する聞き書きではないにしろ、それら手紙に現れている声と作家との対話によって編纂がなされたメタクリエイションであるといった点において、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチに代表されるような証言文学との親和性や多声的な文学における音響化の実験といった側面も窺えます。
また、本展では数十通の手紙の束のなかに入っていた手紙の書き手のひとりで、原子爆弾によって亡くなったと判明している蕗子さん(仮名)のリサーチを広島市と三次市で行い、制作した新作も発表されます。被爆によって亡くなる前に彼女が手紙を書いた場所や広島市で下宿していた場所を突き止め、その場所に数日間滞在させてもらい、小林は彼女の足跡を辿るリサーチと制作を行いました。「その間に広島も焼けてしまうかも知れないし、私達の運命はどうなるかわかりません。」と疎開先から広島市に出る前、彼女は書き残しています。小林は戦時下における市井の十八歳の女性が持っていたこの徴候知的感性について、恣意的解釈をしているとしてもそれは決して無視できるものではなく、現代の私たちはそのことについてどのように考えるべきか深い問いを投げかけます。
会期中にはトークイベントとして、第一夜「書かれる手、跳ねる魚が飛び去ったあとでさえもなお|Polyphony1945 – HIROSHIMA編 – 」、第二夜「被爆体験伝承活動と現代美術における実践との交点について、広島市被爆体験伝承者の茂津目恵さんと語る」を開催します。本展で小林が取り組んだプロジェクトとアプローチ、広島市における証言伝承活動を踏まえながら、個人の声の集合体としての歴史について多角的な議論を共有する場を設けます。
【作家紹介】
小林清乃(こばやし きよの)。現代美術作家 。愛媛県生まれ。東京在住。
失われたものの「声」を呼ぶこと、呼び覚ますことをテーマに歴史の記述から埋もれた証言や事象、物語りを掘り起こす。触知不可能なボイスサウンドを研究することであらたな口伝えの形態となりえる表現を探求している。主な展示に「コエロギネの解剖学」(山武市百年後芸術祭, 2024)「Polyphony1945」(資生堂ギャラリー, 2019)、「インタビューセッションセラピー 交わるとき、あなたの語ることの声」(Yale Union 米国, 2018)。2021年より川村文化芸術振興財団 ソーシャリー・エンゲイジド・アート支援の助成を受け、星の運行の視座から原発事故後の人間と動物との関係性について考察するプロジェクト「永い時間と牛飼いの方角、光の声」も継続中。
アーティストウェブサイト:https://kiyonokobayashi.com
Instagram:https://www.instagram.com/kiyono.kobayashi/