私は金物屋の倅として育ち、子どもの頃から店に並ぶ商品がおもちゃでした。
なかでも針金は特別で、曲げたり、つないだり、ぜんまいやばねのように伸ばしたり縮めたりする感触が、ただただ楽しかった記憶があります。
時が過ぎ、六十歳を迎えた頃、鉄筋同士を結束するために使われる結束線に再び出会いました。
柔らかさと同時に芯のあるその線材は、形を保ちやすく、思い描いたかたちを素直に受け止めてくれました。
最初は平面的な造形から始まり、やがて立体へと発展し、妄想の中にあったイメージが次々と実体を持ちはじめました。
気がつけば、わずか二、三年のうちに驚くほど多くの作品が生まれていました。
絵を描くことや物をつくることは昔から好きでしたが、
これほど自由な造形が自分の中に眠っていたことに、正直なところ自分自身が一番驚いています。
もしかすると、長い時間を経てようやく目を覚ました潜在能力だったのかもしれません。
本展は、私にとって最初であり、そしておそらく最後となる本格的な個展です。
展示空間の構成、ポスターやフライヤーの制作は、古くからの友人に託しました。
彼との信頼関係のもとに生まれたこの場は、単なる個展というよりも、
記憶と時間を共有してきた二人による、ひとつのコラボレーションでもあります。
この空間で、針金が紡ぐかたちと、そこに流れる時間を、どうぞ自由に感じていただければ幸いです。
西本範男
1951年 広島市生まれ
2014年 建設資材の結束線(鉄筋と鉄筋を結束する針金)を使い制作開始
2015年 にしもとのりおの針金アート(パナソニックリビングショウルームカフェギャラリーN /広島市)
にしもとのりおの針金アート(広島信用金庫可部支店/広島市)
大阪EIDAI堺ファクトリーショウルーム「ヨーロッパの古城に吹く風」作品を5年間貸出
2020年 にしもとのりおのワイヤーアート展(エディオン蔦屋家電/広島市)
2023年 広島市文化財団「美術ひろしま32」WORKSに掲載