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加村隆幸 展『驢馬と井戸と水の入った紙コップ』

ふたつの背の高いイドを前にロバはどちらの井戸の水を飲もうかと考えたが、ふたつの井戸は大きさも形もそっくりでロバにはとても選べそうになかったし、どちらを選んでも後悔することもわかっていた。

 

  • 会期|2022.9.7 Wed-9.11 Sun
  • 時間|11:00〜20:00(最終日17:00まで)
  • 会場|gallery G(広島市中区上八丁堀4-1)

 

 

 

「彼女はどんな時間でも、どんな姿勢でも眠ることができるという人間の一人だった。彼女と話していると 正統の意味を全く理解していなくとも、正統と見える振る舞いをすることがどれほど簡単であるかよくわかる のだった。ある意味では、党の世界観の押し付けはそれを理解できない人々の場合に最も成功していると言え た。どれほど現実をないがしろにしようが、かれらにならそれを受け入れさせることができるのだ。かれらは 自分たちがどれほどひどい理不尽なことを要求されているかを十分に理解せず、また、現実に何が起こってい るのかに気づくほど社会の出来事に強い関心を持ってもいないからだ。理解力を欠いていることによって、か れらは正気でいられる。かれらはただひたすら全てを鵜呑みにするが、鵜呑みにされたものはかれらに害を及 ぼさない。なぜなら鵜呑みにされたものは体内に有害なものは何も残さないからで、それは小麦の一粒が消化 されないまま小鳥の身体を素通りするのと同じなのだ。」

これはジョージ・オーウェルのデストピア SF 小説『1984』の中の一片。主人公ウインストン・スミスは 恋人ジュリアとの隠れ家での情事のあと、眠る彼女を見ながらそう想う。小説の中では世界が 3 つの超大国に わかれていて、その三国がついたり離れたりしながら戦争状態を続ける。その目的は対戦国を支配することで はなく自国民をうまくコントロールするためのもの。作中の中で、ある日戦争相手が変わっていることにウイ ンストンは気づくが他に気づくものはいない。それは国を支配している党によって歴史(過去)が日々都合よ く改竄され続け社会が変質してしまっているから。 思想・言語・結婚などあらゆる市民生活に統制が加えられ監視されている社会、もし当局に目をつけられる ことになるとその人物はいつの間にかいなくなる。人々は貧しく不自由な社会の中で生きているが、改竄され た過去の時代よりも「悪くはない」と思って生きている。